自己破産|生活保護申請の却下の問題

主文

1 原告の主位的請求1項のうち行政措置として行われた保護申請却下処分の取消しを求める部分及び主位的請求2項をいずれも却下する。
2 原告の主位的請求1項のうち生活保護法に基づく保護申請却下処分の取消しを求める部分及び原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

(主位的請求)
1 a市福祉事務所長が平成20年12月22日付けで原告についてした生活保護法による保護申請却下処分を取り消す。
2 a市福祉事務所長は,原告に対し,生活保護法による保護の開始決定をせよ。
(第一次予備的請求)
a市福祉事務所長は,原告に対し,別紙1記載の内容の生活保護法に基づく生活保護基準に従った保護を行え。
(第二次予備的請求)
原告がa市福祉事務所長から生活保護法による保護の実施を受ける地位にあることを確認する。

子供への影響は?

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第2 事案の概要

本件は,永住者の在留資格を有するb国籍の外国人である原告が,夫とともに駐車場や建物の賃料収入等で生活を送っていたところ,原告宅に引っ越してきた義弟から暴言を吐かれる,預金通帳等を取り上げられるなどの虐待を受け,生活に困窮したことから,生活保護を申請した(以下「本件申請」という。)が,a市福祉事務所長(以下「処分行政庁」という。)が本件申請について却下処分をした(以下「本件却下処分」という。)ため,主位的に本件却下処分の取消(取消訴訟)及び保護開始の義務付け(義務付け訴訟)を求め,予備的に保護の給付(当事者訴訟)を求め,さらに予備的に保護を受ける地位の確認(当事者訴訟)を求めた事案である。
1 前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,括弧内に記載した証拠及び弁論の全趣旨により認定することができる。
(1) 原告は,永住者の在留資格を有するb国籍の外国人である。
(2) 原告は,昭和29年10月5日,b国籍で永住者の在留資格を有するAと婚姻し,Aが経営していた料理店を二人で切り盛りして生活していたが,Aが昭和53年ころに体調を崩して仕事を辞めたため,以後,亡義父が所有していた駐車場とAが所有する建物の賃料収入等で生活していた(甲1,51,乙21,弁論の全趣旨)。
(3) Aは平成16年9月ころから認知症により入院していたところ,平成18年4月ころ以降,Aの弟のBが原告宅に引っ越してきて,原告と生活を共にするようになった。
以後,原告は,Bから頭をたたかれる,暴言を吐かれる,預金通帳や届出印を取り上げられるなどの虐待を受けた。
(4) そこで,生活に困窮した原告は,平成20年12月15日,処分行政庁に対して生活保護申請をした(本件申請)が,処分行政庁は,C銀行に原告及びA名義の預金残高が相当額あることを理由に,同月22日付けで本件申請を却下した(本件却下処分)(甲5,乙8)。
(5) 原告は,本件却下処分を不服として,平成21年2月6日,a県知事に対して審査請求(以下「本件審査請求」という。)をしたが,a県知事は,同年3月17日,行政不服審査法上,不服申立ての対象は「処分」とされているところ,外国人に対する生活保護は法律上の権利として保護されたものではなく,本件却下処分は「処分」に該当しないから,本件審査請求は不適法であるとして,これを却下する旨の裁決をした(以下「本件裁決」という。)(甲6,7)。
(6) 厚生省社会局長は,昭和29年5月8日,社発第382号により,「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」と題する通知を各都道府県知事宛に発し,これに基づき外国人に対する生活保護を行ってきたが,本件申請当時の改正後の同通知(以下「本件通知」という。)の内容は,別紙2のとおりであった(乙2)。
2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 外国人に対する生活保護法適用の有無並びに主位的請求の適法性及び予備的請求の可否
(被告の主張)
以下のとおり,外国人には生活保護法は適用されないから,外国人である原告に法律上生活保護の申請権は認められない。
したがって,本件申請は生活保護法に基づくものではなく,行政庁に対して行政措置を求めるものに過ぎないのであって,本件却下処分はこれに対する事実上の応答としてなされたものであるから,本件却下処分に処分性は認められず,審査請求前置の要件も満たさない。
よって,主位的請求1項は不適法であり,却下されるべきである。
また,義務付けの訴えである主位的請求2項は,本件却下処分が取り消されるものである場合に提起することができるところ,上記のとおり本件却下処分は取り消されるものではないから,主位的請求2項も不適法である。
さらに,予備的請求はいずれも,原告の権利又は法律上保護された利益に基づかず,また,法令上の根拠に基づかずに,行政上の措置として,生活保護法上の給付を求め,生活保護法上の保護の実施を求める地位にあることの確認を求めるものにすぎず,公法上の法律関係はないといわざるを得ないから理由がなく,棄却されるべきである。
ア生活保護法1条は,生活保護の対象者を「国民」と規定しているから,外国人に生活保護法の適用はない。
イ各国ともまず自国民の社会権の充実に努力することが合理的であり,外国人を社会保障から排除することが憲法25条に反するとはいえない。
同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は立法府の広い裁量に委ねられており,生活保護法の適用を在留外国人に認めないことが著しく合理性を欠き,明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ない立法措置とはいえない。
ウ限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり,自国民を在留外国人より優先的に扱うことは,当然許されるべきであるから,外国人に生活保護の申請権を認めないことは憲法14条に反しない。
エ経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「A規約」という。)2条2項,9条及び11条1項は,社会保障についての権利等が国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,その権利の実現に向けて国が積極的に社会政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではない。
オ本件通知に基づき外国人に対する生活保護の給付が認められてきたとしても,外国人に対する生活保護の給付に法令上の根拠がないことは明らかであるから,それに対する外国人の信頼又は期待が直ちに法律上の利益(行訴法9条1項)に該当するとまではいえない。
(原告の主張)
以下のとおり,外国人,少なくとも永住資格を有する外国人にも憲法25条が規定する生存権の保障は及び,生活保護法が適用されるから,原告にも法律上生活保護の申請権が認められる。そして,原告は生活保護法により認められた同申請権に基づき本件申請を行ったのであるから,本件申請に対してなされた本件却下処分は処分性を有するし,本件却下処分に処分性が認められないことを理由に本件審査請求を却下した本件裁決は違法であるから,主位的請求は審査請求前置の要件も満たす。よって,主位的請求は適法である。
仮に,本件却下処分に処分性が認められないとしても,外国人に対しては本件通知により長年生活保護が支給されてきたのであるから,本件通知による給付を拒否された場合には,当事者訴訟としての給付の訴え(第一次予備的請求)が認められるべきであり,給付の訴えが認められないとしても,当事者訴訟としての確認の訴え(第二次予備的請求)が認められるべきである。ア憲法の保障する基本的人権は,性質上日本国民固有の権利と解されるものを除き広く外国人にも保障されるところ,憲法25条が保障する生存権は,人の生存を支える極めて重要な基本的人権であるから,少なくとも日本人と変わらない生活実態を有し,納税義務も果たしている永住資格を有する外国人には保障され,それを具体化した生活保護法も適用がある。
イ厚生年金法,国民年金法,身体障害者福祉法及び労働者災害補償保険法等においては,所定の要件の下に外国人に対してもその適用が認められているにもかかわらず,最後のセーフティネットである生活保護の場合だけ外国人,殊に永住資格を有する外国人に対する適用が認められないというのは,合理的理由が全くなく,国籍を理由とした差別であり,法の下の平等を定めた憲法14条に反するので,少なくとも永住資格を有する外国人にも生活保護法が適用されなければ違憲である。
ウA規約2条2項(「この規約の締約国は,この規約に規定する権利が人種…によるいかなる差別もなしに行使されることを約束する。」),9条(「この規約の締約国は,社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。」),11条1項(「この規約の締約国は,自己及びその家族のための相当な食糧,衣類及び住居を内容とする相当な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善についてのすべての者の権利を認める。
締約国は,この権利の実現を確保するために適当な措置をとり,このためには,自由な合意に基づく国際協力が極めて重要であることを認める。」)は自動執行条約であり,上記各規定によれば,外国人に生存権が保障されること,さらには,外国人に生活保護を受ける権利が認められることは明らかである。
エ外国人に対する生活保護法の適用については,本件通知が「国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて」保護を行うようにとの見解を示しており,生活保護行政においては,外国人に対して日本人と同等の保護を行ってきた長い歴史がある。日本人との平等取扱いの必要性,給付の公正さの確保の必要性,生活困窮に対する緊急の必要性等を考えると,仮に外国人に対する生活保護の受給関係が「準用」すなわち行政措置の反射的効果であるとしても,生活保護の運用に対する外国人の信頼ないし期待は法的保護に値する利益であるから,本件却下処分には処分性が認められるべきである。
(2) 原告は生活保護の受給要件を満たすか。
(被告の主張)
仮に本件却下処分が処分性を有し,訴訟要件を充足したとしても,以下のとおり,原告は要保護状態になく,生活保護の受給要件を満たしていなかったのであるから,本件却下処分は適法である。また,仮に原告に生活保護がなされたとしても,実際の支給額は別紙1記載の内容とは異なる。
ア原告は,平成20年12月15日現在,35万5540円の預金を有していたほか,駐車場収入として毎月約16万円(平成20年9月ないし11月の平均月額)の収入があった。また,生活保護法10条は世帯単位の原則を規定するところ,Aも,同日現在,192万2401円の預金を有していたほか,毎月約59万円の不動産収入(平成20年9月ないし11月の平均月額)があった。
イa市c町×丁目×番地上の建物3棟はA名義であり,同土地及び同土地上の建物1棟は亡義父名義であるところ,Aにおいて,自己名義の建物のほか,亡義父名義の不動産についても相続人代表者として固定資産税を課税されていることからすれば,これらの不動産はAが管理しているものといえる。
また,亡義父名義の前記土地及び建物を亡義父の相続人である兄弟3名で等分に分割したとしても,Aが相続した財産は相当な額に上る。
ウ原告主張のBに関するトラブルについては,専門家に対して早期に正式依頼し,必要な法的措置を講じることにより解決することが可能であったし,被告もその旨継続的に助言してきたにもかかわらず,本件申請に至るまでの間,原告は問題解決に向けた具体的行動に及ばなかったのであるから,生活保護法4条の補足性の要件を充足しない。
エ単に夫婦の一方又は双方が入院したことのみをもって婚姻関係が破綻しているとは認められず,むしろ,原告夫婦は,昭和29年の婚姻後,現在まで夫婦関係を維持し,夫婦の就労収入及び不動産収入によって家計を共にしてきたのであるから,同一世帯と認定するのが妥当である。
(原告の主張)
以下のとおり原告は要保護状態にあり,生活保護の受給要件を満たすから,本件却下処分は,生活保護法19条1項1号に反し違法であり,生活保護の開始決定をしないことは裁量権の逸脱・濫用である。また,仮に外国人に対する保護の決定が処分に当たらないとしても,行政措置として生活保護の開始決定を行い保護を実施すべきである。
ア原告は,平成18年4月末ころから,突然原告の了解もなく原告宅に引っ越してきたBから暴力を振るわれる,預金通帳を取り上げられるなどの虐待を継続的に受けたため,現在入院しているところ,原告にみるべき資産はなく,平成22年7月29日時点での医療費の滞納額は合計247万5200円に上る。
イ原告及びA名義の預金は,それぞれ原告ないしAの資産ではない上,通帳及び届出印をBに取り上げられたため,原告が自由に引き下ろせない状態にあった。
また,駐車場及び建物の賃料収入は,BらAの兄弟に帰属し,あるいはBが管理しているため,原告が自由に処分できるものではない。
原告は,平成21年6月に預金通帳の返還を受けたが,駐車場収入の入金はなく,現在の原告名義の預金口座の残高は210円しかない。
ウAは,意思無能力状態にあって平成16年9月21日以降入院しており,原告も,平成20年9月12日以降入院している。原告夫婦は婚姻関係が破綻しており,同一世帯にあるという実態はないから,世帯分離が妥当する。

第3 当裁判所の判断

1 争点(1)(外国人に対する生活保護法適用の有無並びに主位的請求の適法性及び予備的請求の可否)について
(1) 外国人に対する生活保護法適用の有無について
被告は,外国人には生活保護法は適用されないから,本件申請は生活保護法に基づくものではなく,本件却下処分は行政庁に対して行政措置を求める本件申請に対する事実上の応答としてなされたものに過ぎないから,処分性は認められないと主張する。これに対し,原告は,外国人,少なくとも永住資格を有する外国人にも憲法25条が規定する生存権の保障は及び,生活保護法が適用される等と主張して,本件申請は生活保護法に基づくものであり,これに対してなされた本件却下処分は処分性を有すると主張する。
そこで,以下,本件却下処分の処分性等を判断する前提として,外国人に生活保護法の適用があるか否かについて検討する。
ア生活保護法の解釈について
生活保護法1条は,「この法律は,日本国憲法第25条に規定する理念に基き,国が生活に困窮する『すべての国民』に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする。」と規定し,同法2条は,「『すべて国民』は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護を,無差別平等に受けることができる。」と規定しており,生活保護受給者の範囲を日本国籍を有する者に限定している。
このことは,旧生活保護法1条が,「この法律は,『生活の保護を要する状態にある者』の生活を,国が差別的又は優先的な取扱をなすことなく,平等に保護して,社会の福祉を増進することを目的とする。」と規定し,その適用対象を日本国民に限定していなかったものを上記のとおり改めたことからも明らかであり,このように,現行生活保護法が同法の適用対象を旧生活保護法が規定する「生活の保護を要する状態にある者」から,「すべての国民」,「すべて国民」と改めたのは,現行生活保護法において,旧生活保護法が有していた恩恵的な給付としての性格を改め,国民に生活保護受給権があることを明確にする一方で,生活保護受給権者の範囲を日本国籍を有する者に限定した趣旨と解することができる。
イ憲法25条との関係について
原告は,少なくとも,日本人と変わらない生活実態を有し,納税義務も果たしている永住資格を有する外国人については,憲法25条の生存権が保障されるから,生活保護の適用対象とすべきである旨主張する。
そこで,生活保護法が生活保護受給者の範囲を日本国籍を有する者に限定し,永住資格を有する外国人を保護の対象に含めていないことが憲法25条に反するか否かについて検討するに,憲法25条1項は,国が個々の国民に対して具体的,現実的に義務を有することを規定したものではなく,同条2項によって国の責務であるとされている社会的立法及び社会的施設の創造拡充により個々の国民の具体的,現実的な生活権が設定充実されていくものであって,同条の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は立法府の広い裁量に委ねられていると解すべきところ,永住資格を有する外国人を保護の対象に含めるかどうかが立法府の裁量の範囲に属することは明らかというべきである(最高裁平成13年9月25日第三小法廷判決・集民203号1頁参照)。
そうすると,永住資格を有する外国人を保護の対象に含めるかどうかは立法府の広い裁量に委ねられているから,その立法府の選択決定は,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような場合を除いては,違憲の問題は生じないものというべきである(最高裁昭和57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁参照)。
そこで,生活保護法が生活保護受給者の範囲を日本国籍を有する者に限定し,永住資格を有する外国人を保護の対象に含めていないことが,著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような場合に当たるか否かについて検討するに,外国人に対する生存権保障の責任は,第一次的にはその者の属する国家が負うべきであるし,国は,その限られた財源の下で,国内外の政治・経済・社会的諸事情等を考慮しながら,その政治的判断により,種々ある社会保障政策の中から憲法25条の要請を満たす立法措置を選択することができると解すべきところ,生活保護制度に係る費用は原則として全額公費から支弁されるものであること(生活保護法第10章),永住資格を有する外国人といえども,本国における資産や扶養義務者の有無等が問題となることがあり得るが,その調査が困難であって,これらの者に対して生活保護を実施するときには,事実上無条件で生活保護を与えるに等しくなってしまうことが予想されること,生活保護は生活に困窮する国民に必要な保護を行うものであって,担税力ある者に対する給付ではないから,納税義務を果たしていることと生活保護受給権の有無とは直接的に結び付くものではないことからすると,原告の主張する諸点を考慮しても,生活保護法の適用を永住資格を有する外国人に認めないことが,著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような立法措置であるとまではいえない。
これらのことからすれば,生活保護法の適用対象を日本国籍を有する者に限り,永住資格を有する外国人を保護の対象に含めなかった生活保護法の規定が憲法25条に反するとはいえない。
ウ憲法14条1項との関係について
憲法14条1項は,法の下の平等を規定するが,同項は合理的な理由のない差別を禁止する趣旨であって,各人が有する事実上の差異を前提として合理的な区別をすることは同項に反するものではない。
そして,前判示のとおり,国は,その限られた財源の下で,その政治的判断により,憲法25条の要請を満たす立法措置を選択することができるのであって,外国人に対する生存権保障の責任は,第一次的にはその者の属する国家が負うべきとの考慮の下,生活保護法の適用対象を日本国籍を有する者に限定することも,立法府の裁量の範囲に属する事柄であり,このような区別について合理性を否定することはできない。
これに対し,原告は,国民年金法等他の社会保障制度の中には外国人に対してもその適用が認められている例があるとして,生活保護について外国人,殊に永住資格を有する外国人に対してもその適用が認められないのは合理的理由のない差別として憲法14条に違反すると主張するが,どの範囲の外国人についてどのような種類の社会保障制度を適用するかについても,立法府の合理的裁量に委ねられるものと解すべきであり,上記主張を採用することはできない。
したがって,生活保護法の適用対象を日本国民に限ることが憲法14条1項に違反するものではない。
エA規約との関係について
原告は,A規約2条2項,9条,11条1項が自動執行条約であることを根拠に,外国人に生活保護を受ける権利が認められると主張する。
そして,我が国もA規約を批准しているものであるが,同規約9条の「この規約の締約国は,社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。」との規定は,社会保障についての権利が国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,締約国において権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,個人に対し直接具体的な権利を付与したものではないし,そのことは同規約11条1項についても同様であり,それはその文言に照らして明らかであるから,個人がA規約を根拠に生活保護の開始を請求することはできない。
よって,原告の上記主張は採用できない。
オ以上によれば,外国人について生活保護法の適用はなく,このことは永住資格を有する外国人についても同様であり,また,これが憲法25条等に反するものとも認められない。
(2) 主位的請求の適法性及び予備的請求の可否について
ア本件通知の法的性質について
そこで,以上を前提に本件却下処分の処分性について検討するに,前判示のとおり,外国人に生活保護法の適用はないのであるから,本件通知による外国人に対する生活保護の実施は,生活保護法を直接適用するものでない任意の行政措置として行われてきたものであって,その法的性質は贈与であると認められる。
もっとも,本件通知によれば,同行政措置は,国民に対する生活保護法に基づく決定手続に準じた手続により行われることになっており,外国人から保護の申請書を提出させ,所要の調査を行った上で保護を実施するか申請を却下することになっている(別紙2参照)。
そうすると,一般に,外国人が行う生活保護申請には,外国人にも生活保護法の適用があるとの解釈を前提に同法に基づいて生活保護の開始を求める趣旨の申請と,生活保護法に基づかない任意の行政措置としての生活保護の開始を求める趣旨の申請とがあるものと解される。
イ本件申請及び本件却下処分の法的性質について
そこで,本件申請がいずれの趣旨の申請かであるが,証拠(乙8)によれば,本件申請書には「生活保護法による保護を申請します。」との記載が存するので,本件申請は生活保護法に基づいて生活保護の開始を求める趣旨の申請と認められる。
もっとも,弁論の全趣旨によれば,原告は,外国人が行う生活保護申請に上記のような2つの趣旨の申請があることを特段意識せず,いずれの趣旨の申請にせよ,それが認められて生活保護が開始されることを期待して本件申請をなしたものと認められるから,本件申請は,生活保護法に基づいて生活保護の開始を求める趣旨の申請に限定してなされたものではなく,上記両趣旨の双方を含んだ申請であると認めるのが相当である。
次に,証拠(甲5)によれば,本件却下処分通知書には,「平成20年12月15日付けで申請のあった生活保護法による保護については,次の理由により却下します。」との,本件申請が生活保護法に基づいて生活保護の開始を求める趣旨の申請であることを前提とした却下通知である旨の記載及び同趣旨の本件却下処分に対し審査請求ができる旨の教示の記載が存する一方で,却下理由として,本件申請が生活保護法に基づかない任意の行政措置としての生活保護の開始を求める趣旨の申請であることを前提とした「預貯金調査の結果,C銀行にD,A名義の預金残高が相当額あると判明したため。」との記載が存することが認められる。
そうすると,前記両趣旨でなされた本件申請に対して,処分行政庁は,外国人には生活保護法の適用がないから同法に基づく申請は認められないとの黙示の判断を前提に,行政措置としての生活保護の開始を求める申請に対して実体判断を行って本件申請を却下したものであり,本件却下処分は,前記両趣旨でなされた本件申請をいずれも却下したものと認めるのが相当である。
ウ主位的請求の適法性について
(ア) そこで,以上を前提に,まず,本件却下処分のうち,生活保護法に基づく申請に対してなされた部分(以下,この項における「本件却下処分」は同部分をいうものとする。)についての処分性についてみると,本件却下処分は,原告の生活保護法に基づく本件申請に対し,申請人が日本国籍を有しなければならないとの生活保護法の要件に該当しないとの判断に基づいてなされた却下処分であるから,法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であって,原告の権利義務ないし法律上の地位に直接影響を及ぼす法的効果を有するものということができ,本件却下処分は処分性を有するものと認められる。
そうすると,本件審査請求も適法になされたものと認められ,本件裁決は誤ってこれを却下したこととなるから,主位的請求1項は審査請求前置の要件も満たすといえる。
よって,主位的請求1項のうち生活保護法に基づく保護申請却下処分の取消しを求める部分は適法な請求と認められるが,前判示のとおり,外国人である原告に生活保護法の適用はなく,同法に基づく生活保護受給権は認められないから,原告が外国人であることを理由として却下をした本件却下処分に誤りはなく,主位的請求1項のうち生活保護法に基づく保護申請却下処分の取消しを求める部分は棄却されるべきである。
また,主位的請求2項は行訴法3条6項2号の義務付けの訴えであるところ,本件却下処分がなされているから,行訴法37条の3第1項2号の「当該処分又は裁決が取り消されるべきものであ」ることが訴訟要件となるところ,上記のとおり,主位的請求1項の取消しの対象である本件却下処分は取り消されるものではないから,主位的請求2項は不適法な訴えである。
(イ) 次に,本件却下処分のうち,行政措置としての生活保護の開始を求める申請に対してなされた部分(以下,この項における「本件却下処分」は同部分をいうものとする。)の処分性についてみると,本件却下処分は,生活保護法に基づく申請に対してなされたものではなく,行政庁が発した本件通知を根拠とした行政措置を求める申請に対してなされたものであって,法を根拠とするものではない。
そうすると,本件却下処分は,法を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行う公権力の行使であって,原告の権利義務ないし法律上の地位に直接影響を及ぼす法的効果を有するものではないから,処分性は認められない(法を根拠とする必要がある点につき最高裁平成15年9月4日第一小法廷判決・集民210号385頁参照)。
したがって,主位的請求1項のうち行政措置として行われた保護申請却下処分の取消しを求める部分は不適法であり,また,主位的請求2項は,義務付けを求める対象が行訴法3条6項1号及び2号の「処分」に該当しないので,不適法である。
エ予備的請求の可否について
原告は,本件通知による給付を拒否された場合には,当事者訴訟としての給付の訴え(第一次予備的請求)あるいは確認の訴え(第二次予備的請求)が認められるべきであると主張する。
しかしながら,本件通知による生活保護の実施の法的性質は前判示のとおり贈与であるから,贈与の申込みの意思表示に当たる保護申請に対し,贈与の承諾の意思表示に当たる保護開始決定がなされて初めて贈与契約が成立し,原告に生活保護受給権が発生することになるところ,本件においては生活保護開始決定はなされておらず,かえって,贈与の拒絶に当たる申請却下がなされたのであるから,贈与契約は成立しておらず,原告に生活保護受給権は発生していない。
そうすると,原告は,生活保護の実施を受ける地位にないから,予備的請求はいずれも理由がない。
2 結論
以上によれば,主位的請求1項のうち行政措置として行われた保護申請却下処分の取消しを求める部分及び主位的請求2項は,いずれも不適法であるからこれらを却下し,その余の請求については,いずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

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